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製造現場コミュニケーション改革!トヨタ式掲示板・交換日記で現場が動く

製造現場コミュニケーション改革!トヨタ式掲示板・交換日記で現場が動く

 

「社内SNSやチャットツールを導入したのに、現場の空気は変わらない――。」

多くの製造業や現場部門では、そんな“デジタルコミュニケーションの限界”を感じています。

職場コミュニケーション改革の必要性が高まる中、部署間の壁や物理的な距離、IT格差など、従来のツールでは解決できない“現場ならではの課題”に頭を悩ませている方も多いはずです。

実は、現場の一体感や従業員エンゲージメント向上には、「アナログツール」こそが強力な解決策になるケースがあります。

本記事では、トヨタ式コミュニケーションの実践例をもとに、掲示板や交換日記など、シンプルかつ本質的なアナログコミュニケーション手法で現場がどのように変わったのかを詳しくご紹介します。

この記事でわかること

  • 製造現場特有のコミュニケーション障壁
  • トヨタ式アナログコミュニケーションの実践法
  • 3ヶ月で現場が変わった具体的手順

製造現場が抱えるコミュニケーションの課題

製造現場と管理職の間には、通常の職場とは異なる独特のコミュニケーション障壁が存在します。

たとえば、管理職の方が「午前と午後に最低1回ずつ現場を巡回し、必ず声をかける」という努力を続けていても、製造現場特有の事情で思うような効果が出ないことも多いのです。

 

では、なぜ現場とのコミュニケーションが難しいのか?

主な課題は次の3つです。

  • 物理的な距離:管理職の執務室と製造現場が離れている
  • ITインフラの格差:現場作業者にはPCがなく、メールやチャットでの連絡が取りづらい
  • 時間的制約:シフト制や作業の連続性によって、対話の機会が限られる

このような環境では、どんなに管理職が意識して現場に関わろうとしても、結局「すれ違い」や「形式的な会話」で終わってしまう――。

そんな悩みを多くの現場が抱えています。

 

コミュニケーション改革の転機と本質

転機となったのは、トヨタ生産方式導入のためにアドバイザーとして招かれたトヨタ自動車OBとのやりとりでした。

「あなたは、現場とどんなふうにコミュニケーションを取っているの?」「毎日2回は現場に行くようにしています」

この回答に対して、OBからは厳しい一言が返ってきました。

「それはただ、同じモノを作っている会社なら十分かもしれないが、私たちが目指しているのはもっと上のレベルだ。それでは足りない。」

このやり取りをきっかけに、管理職の方は「コミュニケーションの回数(量)」、ではなく「コミュニケーションの深さ(質)」に目を向けるようになります。

そして、さらに重要な問いかけがありました。

「あなたは本当に現場とコミュニケーションを取りたいと思っているのか?ただ形式的に"取っているふり"をしているだけじゃないか?」

この言葉は、管理職の方に深い内省を促すことになりました。

「心がける」という意識レベルでは、まだ本質的なコミュニケーションへの気持ちが自然と向いていなかったことに気づいたのです。

 

アナログ「交換日記」発想の効果

ある日、トヨタOBから意外な質問がありました。

  • OB「高校生の頃、交際したことがあるか?」
  • 私「少しだけあります」
  • OB「その時、相手のことを知りたくて、勉強も手につかないくらいにならなかったか?」

このやり取りで、私は「人間は相手のことを本当に知りたいと思うと、時間の制約があっても工夫するものだ」という本質的な気づきを得ました。

 

その後、OBが提案したのが「交換日記」というコミュニケーション手法でした。

交換日記イラスト

最初は「今どきそんなやり方…」と古臭い印象を受けたものの、ある工場見学をきっかけに、その真意を心から理解することになります。

 

掲示板活用で現場の対話を促進

日科技連主催のQCサークル発表会で訪れた大手部品工場。

そこで目にしたのは、至るところに設置された掲示板。

 

品質・生産・安全・改善・5Sなど、あらゆる情報が活気に満ちた形で掲示されていました。

これは、トヨタ式コミュニケーションの一環として実践されているものでした。

 

自社に戻り、掲示板を改めて見直してみると――。

毎回同じような内容が繰り返され、ただ形式的に貼り替えられているだけであることに気づきました。

情報はあるものの、そこには「対話」がなかったのです。

 

ある日、時間が合わずに会えなかったスタッフに、掲示板上に赤マジックで質問を書き込んでおきました。

後ほど、丁寧な返事が記入されていました。

「これが“交換日記”だったのか」

 

ここから、次のような改革を実施していきました。

掲示板を「コミュニケーションボード」に変えるステップ

▼改革の4ステップ

  1. 掲示内容の担当制導入:掲示板に掲載する情報ごとに担当チームを割り当て、各チームが順番に情報を更新
  2. 情報の明確な分類:「生産状況」「改善提案」「安全情報」「品質目標」など、情報の種類を明確に分類
  3. ビジュアル化の工夫:分かりやすいレイアウトや色分けを導入
  4. 設置場所の拡大:現場ごとに掲示板を追加設置し、情報アクセスを向上

そして最も重要なのが、「交換日記式情報共有」とも言える対話形式の導入です。

具体的には:

  • 1日2回の現場巡回時に、気になることや気づきを赤マジックで直接掲示板に書き込む
  • 質問や課題提起だけでなく、「ありがとう!」「Good!」などのポジティブなフィードバックも記入
  • 現場の担当者は、別の色のマジックで返答を書き加える

このような現場巡回の効果的方法により、一方通行だった情報の流れが双方向のコミュニケーションへと変わっていきました。

 

コミュニケーションボードの導入効果

数ヶ月後、掲示板は劇的に変化していました。

以前は、ただ紙が貼ってあるだけで誰も見向きもしなかった掲示板。

それが今では、赤や青の文字でびっしりとコメントが書き込まれ、まるで活発な「会話」が交わされているような空間になっていたのです。

 

この変化は、単なるコミュニケーション量の増加にとどまりません。

コミュニケーションボードの導入で、現場には次のような効果が現れました。 

 

▼主な5つの効果

  • リアルタイムな情報共有:問題や変化をその場で共有できるようになった
  • フラットな組織文化醸成:役職に関係なく意見や質問ができる風土が生まれた
  • 責任感と当事者意識の向上:掲示物に名前や返答を書くことで、責任感が高まった
  • 問題解決の迅速化:課題が可視化され、対応スピードが向上
  • 従業員エンゲージメント向上:自分の意見が反映される実感が社員のモチベーションを高めた

その後、再びQCサークルの発表会でトヨタ系列の部品工場を見学した際、
同様の掲示板が「コミュニケーションボード」と名付けられていることを発見しました。

トヨタOBから聞いた「交換日記のように掲示板を使う」という言葉の深い意味を、ようやく理解したのでした。 

 

デジタル時代のアナログコミュニケーション効果

特に100人を超えるような大規模な職場では、全員と直接会話するのは物理的に難しくなります。

だからこそ、掲示板という誰でも簡単に使えるアナログツールが、最も強力なコミュニケーション手段となり得るのです。

 

「時間がない」「すれ違いで会えない」—
そんな言い訳をしてコミュニケーション不足を放置していませんか?

 

この事例が示すように、「交換日記」スタイルのコミュニケーションは、現代の職場でも十分に通用し、確かな変化を生み出します。

今から始めても遅くありません。 

 

アナログコミュニケーションの他業種応用法

この事例は製造業のものですが、さまざまな業種や職場でも同じように応用できます。

 

▼他業種への活用例

  • 営業部門:営業所や外回りスタッフとのコミュニケーションボード
  • 医療・介護現場:シフト制スタッフ間の情報共有ボード
  • IT企業:プロジェクト状況の可視化と対話型進捗共有
  • 小売・サービス業:店舗間や本部-店舗間のコミュニケーションツール

重要なのは、単なる「情報掲示」ではなく「対話を生み出す仕掛け」としての活用です。

 

まとめ:アナログコミュニケーションが生む3つの効果

アナログコミュニケーションがもたらす、現場改革の3大メリットはこれです。

  1. リアルタイム対話:時間や場所の制約を超えた情報共有
  2. フラット組織文化:階層を超えた自由な意見交換
  3. 当事者意識向上:顔の見えるコミュニケーションによる責任感醸成

デジタル時代だからこそ、人と人をつなぐアナログの力が重要です。

よくある質問:アナログコミュニケーションQ&A

Q1: デジタルツールが普及している中で、なぜアナログの掲示板が効果的なのですか?
A: デジタルツールは情報共有の効率は良いものの、「目に見える存在感」「誰でも平等にアクセスできる」「書き込む行為自体が意思表示になる」といった、アナログツールならではの特性があります。特に製造現場のコミュニケーション改善においては、PCを常に使えない環境でも活用できる点が大きな利点です。

Q2: 交換日記式情報共有は、大規模な組織でも機能しますか?
A: はい。むしろ大規模組織ほど効果的です。100人を超える職場では全員と直接会話することが物理的に難しいため、この方法は規模が大きいほど真価を発揮します。ただし、設置場所や更新ルールの明確化など、運用ルールの整備は重要です。

Q3: 現場マネジメントコミュニケーションを改善するには、どのくらいの期間が必要ですか?
A: 事例では、3〜6ヶ月程度で変化が見られ始めました。最初の1ヶ月は管理職側からの働きかけが中心となりますが、現場からの反応が増え始めると、自律的に対話が生まれるようになります。

Q4: 職場コミュニケーションツールとしての掲示板は、どのように進化させていくべきですか?
A: 最初は単純な質問と回答から始め、次第に「改善提案」「ヒヤリハット共有」「ベストプラクティス」など、テーマ別のコーナーに発展させていくことで、より多様な対話が生まれます。また、定期的な「掲示板ツアー」などのイベントを設けるのも効果的です。

  • この記事を書いた人

上石 政代(Smile System Support 代表)

5S活動の社内定着を支援するコンサルタント・講師。
これまでに医療・介護・製造業などの現場でのべ1000名以上に研修・講演を実施し、5Sを“現場文化として根づかせる”実践支援を行っている。
現在までに、5Sによる組織風土改善支援に携わった企業は100社を超える。
Smile System Support代表・上石政代について

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